「峰 万里恵のページ」付録(ふろく) うたを もっと 感じるために 高場 将美


発音について――TVWXYZ



§ T

日本語の「タテト」に出てくる音と、まずまず同じ(チとツは別の音だ)。
スペイン語では一般に、舌先を上歯の裏に付け、
その舌先を離すときに音が出る。日本語と同じだ。
ポルトガル語では一般に、英語と同様に、
舌先を上歯茎の後ろあたりに付けて、離す。
そのとき強く空気が破裂する感じのひびきをともなう。
単語の途中に出てくる t は、そんなに強いひびきはもたない。
また、アメリカの英語の標準発音では、
舌先が、より後ろに来て、ちょっと反り返り、
たとえば water(水)が「ウォーラ」と聞こえるが、
ポルトガル語には、それがない。

Dの発音についても、ご参照ください

ブラジルの標準的発音、そしてポルトガルでも一部では、ti および
弱い te は、日本語の「チ」に近く発音される。
例:partida de futebol(サッカーの試合)パルチーダ・ヂ・フチボーウ
Eu te amo.(わたしはあなたを愛する)エウ・チ・アモ。


§ V

ポルトガル語では、他の多くの言語と同様に f の、にごった音で、
上の歯と下唇の細いすきまから音を出す。
例:vamos(わたしたちは行く、行こう!)ヴァーモス(シュ)。

F の項をごらんください

スペイン語では、b と同じ音。
例:vamos(わたしたちは行く、行こう!)バーモス。

B の項をごらんください

ただし、スペイン語でも読み書きのできる人は、
いわゆる知識人ではなくても、
ていねいにことばを伝えようと意識したときは、
この文字を v に近づけた b で発音する。
無意識にそうなってしまうときがあるらしい。
古いタイプのフラメンコの歌い手 ホセレーロ
Joselero (Puebla de Casalla, Sevilla 1910 - 85 Morón, Sevilla) の録音で
そんな発音を聴いたときは、ちょっとびっくりした。
きまじめな歌い手とは知っていたが……。
アルゼンチンのタンゴ歌手 ロベルト・ゴジェネーチェ
Roberto Goyeneche (Buenos Aires 1926 - 94) は、
歌詞があまりくだけた調子のものをのぞき、
気取っていると聞こえないように気をつけながらも、
つねにそういう発音だ。
彼は、自身のことばの体系を樹立
(大げさですね、ハハハ……)していて、
意識的にそうした。

日本で、たとえば Bolivia(国名ボリビア)を「ボリヴィア」と書く人は、
発音うんぬんでなく、元来の文字を伝えたいのだろう。
ふつうの日本人は、こう書いてあっても「ボリビア」と発音する。
だから、この書き方はおすすめかもしれませんね。


§ W

もともとラテン語にはなかった文字なので、外来語にしか使われない。
発音は、もとの言語にしたがって、英語風かドイツ語風にする。
外来語もラテン語系の表記に直してしまうことでは、ブラジルがいちばん進んでいる。
例:uísque これで「ウウィースキ」という発音になる。


§ X

この文字は、スペイン語でもポルトガル語でも、多くの場合、
日本語だと漢字で書かないとわからないような
堅いことばに出てくる。
(表音文字としても使われるが、それについてはあとでご説明しよう)
スペイン語では、基本的には [ks]
よく使われて慣れたことばや、早口のときは、[s] とだけ発音される。
例:éxito(成功、ヒット作)エクシト。examen(試験)エクサーメン。
existencia(存在)エクシステンシア、またはエシステンシア。
extraterrestre(ET=地球外のもの)
エクストラテレーストレ、あるいはエストラテレーストレ。
ポルトガル語では、一般に S の文字とまったく同じように発音し、
他の単語とまぎらわしいときだけ [ks] と発音する。
exame エザーメ。êxito エジトゥ。
exportação(輸出)エスポルタサォン。
axila(わきの下)アクシーラ。fixo(定着した、定まった)フィクソ。

X を表音文字として使う場合、
むかしは、アラビア語系の、のどの奥から出てくる [h] の強いような音を
あらわしたらしい。
現在の地名 Jerez(ヘレス)は、かつては Xerez と書いていた。
それを英語風に言いやすく読んだことから、
「シェリー」というワインの名前ができたりした。
また、この文字で、アメリカ大陸先住民のことばなどに出てくる
[sh] の音もあらわした。
しかし、この文字の発音は、原語がどうあれ、
「ハヒヘホ」のような発音に統一されてしまってきたので、
現代では、表音文字としての X はすべて、
JG に書き換えている。

*発音法は、J の項をごらんください

すっきりしてよいけれど、おさまらないのはメキシコ人だ。
México という地名は、先住民メシカ人の土地ということで
付けられたもので、元来は「メシコ」と呼ばれ、やがては
「メヒコ」と読まれるようになった。
そして、スペイン語世界全体の取り決めで
x の文字はすべて j に書き換えましょう」ということで、
メキシコ以外の国はみんな Méjico と学校で教えている。
公式文書でも新聞でもそう書かれる。
「メヒコ」と読まれるのはかまわないが(メキシコ人もそう呼んでいる)、
文字を変えるのはやめてくれと、メキシコ人は怒り、嘆願する。
1992年、アメリカ大陸発見5百年記念の年に、
スペインのセビージャで開かれた万博で、
メキシコのパヴィリオンは X 形を大アピールした
……でも、多勢に無勢ですからねぇ。
わたしは、いつも México と書きますが。

ポルトガル語では、表音文字としての X は、
つねに [sh] と読まれる。
また、歴史的な重みのあることば、アフリカ起源のものなどのほかは、
CH の2字に書き換える(発音は同じ)ことが進んでいる。
例:xadrez(チェス)シャドレース。axê(アフリカの精霊)アシェー。
xerox(ゼロックス)シェロークス。xiita(イスラーム教シーア派)シイータ。


§ Y

Y, y という文字は、ラテン系ではなく、
古代ギリシアの Υ, υ(ユプシロン)を借りてきたもの。
この文字はポルトガル語では、いまはまったく使わない。
外来語などでも元来この字だったものは、
すべて I の字に置き換えることに決めている。
例:ioga(ヨガ)イョーガ。

スペイン語では良く使われる字で、単独のときと、単語の最後では、
I と同じ発音になる。
例:y(そして)イ。voy(わたしは行く)ボイ。

単語の途中では、元来は「ヤユヨ」に出てくる音だった。
しかし、なん百年か前から、「シャシュショ」のにごった音、
あるいは「チャチュチョ」のにごった音になり、
こちらの発音が、スペインおよびラテンアメリカのすべてで、優勢になっている。
例:yo(わたし)ジョ、ヂョ、(少数派は)ヨ。yoga ジョガ、ヨガ。

なお、アルゼンチンでは、10年ほど(?)前から
――たぶん思春期の人たちから広まって――、
これを「シャシュショ」に限りなく近く、
というより「シャシュショ」そのもので発音するようになった。
軟弱で、気持ち悪い、舌足らずの発音だ。
それが、ふざけてやっているのではなく、
自然にそう発音していると知ったとき、
わたしは笑うのを通り越して、吐き気をもよおした。
古いタンゴをそんな発音でうたわれたら、ほんとに冒涜だ。
外国人のわたしが、どうこう言える問題ではないが、
まだ40歳にならないアルゼンチン人も、嘆かわしい発音だと怒っていた。
でも、ことばは結局は多数決で、悪い(といわれる)ほうへ、
新しい傾向のほうへ流れてゆく。さっき怒っていた人も、
知らないうちに自分のことを「ショ」というようになるだろう。
日常生活の中では、それは仕方がない。
でも、古い曲の歌詞は、本来の音のひびきを変えたら、死んでしまう。
タンゴの歌の未来は、ますます暗くなった。

*現在多くの地域で、Y の発音は、Ll と同じです。
Llの項もごらんください

§ Z

スペイン語のもとであるカスティーリャ語では、
英語の thing に出てくる音( the ではない)で発音する。
舌先と上歯の先のあいだで空気がこすれて出てくる音だ。
しかし、スペイン南西端アンダルシーア地方、ラテンアメリカ全域では、
澄んだ s の音で発音される。
これは日本語と同じ音で、空気は
舌先と上歯の裏側を通る。
カタカナで書けば、どちらも「サスィスセソ」とかかれる音
(決して「ザジズゼゾ」にはならない)。
例:zoom(ズームレンズ)スーム。zorro(狐)ソRRロ。
シラブルの最後に来た場合のあつかいは、S とまったく同じだ。

ポルトガル語では、日本語の「ザズィズゼゾ」とまったく同じ音。
例: zôo(動物園)ゾウ。onze(11)オンズィ、オンズ、オンゼ。
単語の最後に来た場合のあつかいは、S とまったく同じになる。

S の発音はここをクリック

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© 2008 Masami Takaba


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