「峰 万里恵のページ」付録(ふろく) 高場 将美


サウダード / サウダーヂ



§ SAUDADE

このことばをカタカナでどう書いたらいいか、異論があるのは認めた上で、
わたしは、ヨーロッパのポルトガル語では「サウダード」、
ブラジルでは「サウダーヂ」とすることに決めた。
(カタカナ表記については別項をお読みください)
これはポルトガル語にしかない、いくつかの感情が重なり合ったことばで、ひとことで
意味をいうのがむずかしい。わたしが最良だと思う定義は、
 “AURÉLIO” の略称で愛されているブラジルの個性的な辞典
«NOVO DICIONÁRIO DA LÍNGUA PORTUGUESA»(ポルトガル語新辞典)にある。
著者の名前が辞書の通称「アウレーリオ」になっているなんて素適ですね。
1500ページもある重い辞書なので
アウレリアォーン(でっかいアウレーリオ)という「愛称」まである
編著者は、アウレーリオ・ブアルキ・ヂ・オラーンダ
Aurélio Buarque de Holanda さん(1910-1989)、
主観的だけど、最良のポルトガル辞書をつくった。
アウレーリオによれば、「サウダード/サウダーヂ」とは――

Lembrança nostálgica e, ao mesmo tempo, suave,
de pessoas ou coisas, distantes ou extintas,
acompanhada do desejo de tornar a vê-las.

わたしが勝手に改行したので、なんだかほんとに詩みたいだが、
定義が、詩や物語の一部と思えるほどの読み物(?)なのが、この辞書の素晴らしさ。
この定義は――「ノスタルジックで、同時にやわらかい想い、
遠い、あるいはなくなった、人々や物事に対する想いで、
それらを またふたたび見たい望みをともなう」
これがサウダード/サウダーヂ。
アウレーリオさんは用例として、次の詩を引用している。

Saudade! és a ressonância
De uma cantiga sentida,
Que, embalando a nossa infância,
Nos segue por toda a vida!

ダ・コスタ・イ・シウヴァという人の詩だそうだ。
「サウダーヂ! おまえは 悲しげな古い歌の あとに残ったひびき
それは わたしたちの幼いころのゆりかごの歌になり、
いまわたしたちに 一生ついてくる!」

 わかったような、わからないような……
それでいいんです。意味を「感じ」ればいい。
“saudade”は「ひとりでいること=孤独」を意味するラテン語が語源だ。
「孤独」がポルトガル語のなかで変化するうちに、
複雑・微妙な感情のニュアンスを注ぎ込まれて、
外国語に訳せないことばになってしまった。
訳さないで、感じましょう!
(なお、スペイン語にも訳せないので、
必要な場合はポルトガル語のまま使っています。
意味がいちばん近いことばは “nostalgia” あるいは
ガリシア語=ポルトガル北部からスペインのガリシア地方の言語=で “morriña” です。
どちらも日本語に置き換えれば「郷愁」ですので、
saudade のニュアンスの一部しかあらわせません)。


「うたを もっと 感じるために」

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© 2007 Masami Takaba


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