ジョアォン・リニャールシュ・バルボーザ通り

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 リスボン観光でファドといえば、まず第一に、アウファーマ(アルファマ)やバイロ・アウト(アルト)地区の「ファドの家」に出かけることになる。
 それはそれですばらしいが、ファドという歌を生み、育ててきたリスボンの街角の空気からも、なにかを吸収したくなる。アウファーマで一生を過ごした詩人アリ・ドシュ・サントシュは「アウファーマには、ファドの匂いはしない。でも、ほかの歌はない……」と言っている。そうなんです! 失われたけれど、まだ感じられる何かを求めて……。
 ファド・ファンは、消えたファドの魂の匂いを求めて、アウファーマはもちろん、その隣のモウラリーア地区も散策したくなる。でも、この地区は、在日ポルトガル領事館による「旅行者への注意」でも、もっとも危険な犯罪地域にひっかかっていて、「昼夜を問わず」立ち入らないように、なんて書いてある。
 そこでわたしがおすすめするのは、ファド詩人(作詞家)、ジョアォン・リニャールシュ・バルボーザの名前をつけた通り RUA JOÃO LINHARES BARBOSAである。通りには、ファドの匂いはまったくないけれど……。
 と、えらそうに知ったかぶりして書いているけれど、わたしは、わざわざこの通りをたずねていったわけではない。この通りがあることはインターネットの記事で読んで知っていたが、いちばん精密な地図にしか載っていない、小さな短い道なので、短期間では見つからないと、あきらめていた。でも、峰万里恵さんといっしょに間違えて乗った市電の終点がアジューダ地区の丘の上だったので、「このへんにジョアォンさんの通りがあるんだな。まぁ空気だけでも吸っておこう」と、ほんの少しだけブラブラした。地図ももっていなかった。日本でインターネットで見た地図で、だいたいの位置はおぼえていたけれど、発見できるとは思わなかった。

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アジューダの丘の上から

 ボヤ〜ッと足踏みしていたら、すぐに、万里恵さんが「あった!!」と呼んでくれた。うたっている人に感謝して、ジョアォンが教えてくれたのだろう。突然、たいへん冷たい突風が、吹きさらしの丘の上を襲ってきて、吹き飛ばされそうになった。歓迎してくれたのだと思うことにした。
 ジョアォン・リニャールシュ・バルボーザ通りに行ってみたい方に――そんな人がいるとは思えないが――道順をご紹介しよう。
 路面電車なら AJUDA、バスなら CEMITÉRIO DE AJUDA(アジューダ墓地)行きに乗る。
 終点で降りると、すぐ目の前が、なんとなく5本の道の交差(リスボンの道はみんな曲がって起伏があるので、明快に言えない)。そのひとつが、AVENIDA HELLEN KELLER(ヘレン・ケラー大通り)。その大通りの、終点を背にして右側の歩道を(左側はほとんど崖だ)10数歩歩いたところから斜めに生えているのが、RUA JOÃO LINHARES BARBOSA である。
 このへんは、名前の由来は知らないが、《カマラォン(えび)》地区と呼ばれてきた。ここから西のほうの地域は、近年、閑静な高級住宅地として開発が進んでいる。不動産屋の広告を見ると、庭またはヴェランダに「バーベキュー設備付き」がほとんどだ。

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 ジョアォン・リニャールシュ・バルボーザ通りの一帯も、植木や草花の茂った、きれいな建売住宅が並んでいる。
 そんなところでも、わたしたちは大感激した。目に見えない古いリスボンの魂が、新しい家々にも宿っているような……。
 名前を刻んだ簡潔なプラーカ(銘板)はあったが、銅像なんかなかった。いまにして思えば、この道はカマラォン広場につづいているので、広場の側の端には彼を紹介した文章入りプラーカでもあったかもしれない。ないだろうと思うけれど。
 きわだった特徴はなにもないところだから、「リスボンへ行ったら、ぜひ訪れてほしい」とは言いにくい。でも、さっきの交わっていた道のひとつ、墓地の塀の東端を通る CALÇADA DO GALVÃO(ガルヴァォン家の坂)は、昔の建物もあって、とてもリスボンらしい風情だ。いいところですよ! ここを通って石畳の坂をずっと下ってゆくと、観光的にも名高い BELÉM(ベレン。ポルトガルでの標準発音は「ブライン」)地区に出る。観光名所を訪れるのに、ちょっとだけ回り道をして、ファド詩人の通りをたずねてはいかがですか?
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高場 将美
© 2009 Masami Takaba

*このページの写真はすべて
峰 万里恵さん撮影です。

下に、オマケとして、万里恵さんの大好きなブライン(ベレン)地区の老舗 パシュターイシュ・ド・ブライン(と発音するのがリスボンの標準)PASTÉIS DE BELÉM のお菓子 pastéis de nata を目で味わってください。
製法は秘伝でしょうが、基本的には、小麦粉でできたちっちゃな器(うつわ)に、卵、ミルク、砂糖でつくったクリームを入れて、オーヴンで焼いたものです。
シナモンを振ってあります。もっとシナモンと砂糖を振りかける人もいます。

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Revista Marie
⇒ 「リスボンに ファドをたずねて
⇒ 「ファド・コンサート〜ポルトガル語教室」(2010/3/12記)
峰 万里恵 撮影フォト・アルバム 「リスボンで見つけた……
高場 将美「リポート 万里恵さんが歌った――2つのファドの店

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