日本語なら「アイウエオ」、スペイン語とポルトガル語では “A, E, I, O, U”
――こういう音が母音(ぼいん、ぼおん)。
それ以外は子音(しいん、しおん)。
ここからは、スペイン語とポルトガル語の子音文字の発音についての記事です。
本来は、まず音のひびきがあって、それを文字で写したわけですが、
ここでは便宜上、文字をまず出して、
その発音を説明する形にしました。
スペイン語でも、ポルトガル語でも、日本語の「バビブベボ」に出てくる音。
例(スペイン語、ポルトガル語ともに):bebida(のみもの、ドリンク)ベビーダ。
スペイン語のひとびとの一部は、両唇を合わせないでこの音を出そうとする結果、
ひびきがなくなることがある。
乱暴な発音では、まったく音が抜けてしまう。
極端な例:sabor ⇒ saó(味)サオー――r も抜けた発音。
この文字は、後ろに来る母音によって、読みかたがちがう。
ca, co, cu のときは、ローマ字のkの音と同じ。
例(スペイン語、ポルトガル語ともに):cama(ベッド)カマ。
ce, ci は、ポルトガル語ではどこでも、スペイン語ではラテンアメリカのほぼすべてと、
スペインの各地で、S とまったく同じ音になる。
カスティーリャ語の標準発音では、英語の thing に出てくる音になる。
これは、この言語での Z の発音と同じ。
ポルトガル語で使われる文字(フランス語などにもありますね)。
S とまったく同じ音になる。
例:açúcar(糖、砂糖)アスーカル。
スペイン語では、日本語の「チャチチュチェチョ」に出てくる音。
例:chancho(ぶた) チャンチョ。
ポルトガル語では、日本語の「シャシシュシェショ」に出てくる音。
例:chega!(もうたくさんだ!) シェーガ!
*特殊な発音――南西スペインのアンダルシーア地方、つまりフラメンコ社会(?)では
英語の sh, th に近い発音をする人も多い。
たとえば noche(夜)は標準発音は「ノーチェ」だが、
「ノーシェ」または「ノーセ」と聞こえる発音になる。
この「セ」は、きしんでいるような音。
なお、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスほか、
イタリア移民の勢力が大きいところが各地にあり
――ブラジルにもある――、そのような地方では、
人名などはイタリア語のままで読むことが一般化している。
もちろんスペイン語・ポルトガル語風に呼んでも、間違いとは言われないが。
たとえば Francini(フランチーニ)、Marcelli(マルチェッリ)、
Bianchi(ビアンキ)、Marchetto(マルケット)のように読む。
イタリア系でない人も、そのくらいは常識として知っているわけ。
その他の外来語の場合、原語どおりに発音する人と、
適当にスペイン語風に読んでしまう人と両方いる。
例:Bach(人名)バッハ、あるいはバック。
cliché(変わりばえのしない、お定まりのもの)クリシェー、あるいはクリチェー。
スペイン語でもポルトガル語でも、日本語の「ダディドゥデド」に出てくる音。
この音は、舌先を上の歯の裏、あるいはより後ろのほうの
どこかにつけ、それを離すとき破裂した感じで鳴る。
舌先を付ける位置が、言語により、
あるいは個人差によって違うので、ひびきは異なってくる。
日本語でも「お団子」が「オランゴ」と聞こえる人がいますね。
アメリカ英語の現在の標準発音では Saturday は「サラレ」と聞こえる。
スペイン語およびポルトガルのポルトガル語では、
母音に挟まれたりして緊張の弱まった d は、
英語の the に出てくる音に近寄る。
――と解説した学習書が多い。それは自然な成り行きで、
気にしないでいいとわたしは思う。
意識的にそのような発音をしようと心がけたら、
ものすごく、いやらしい外人だと思われるだろう。
スペイン語では、単語の最後の d の音は、
「発音しない」のが現代の標準発音である。
例:Madrid(スペインの首都)マドリー。soledad(孤独)ソレダー。
詩の朗読などでは、また歌手によっては、歌詞の流れから、より美しいと判断したとき、
語尾の d を弱く(破裂しないで)発音する。
そのほうが格調が高くなる感じ。
もともと語尾が d の単語は、抽象名詞など
教養が必要なニュアンスのものが多い。
タンゴ歌手 ロベルト・ゴジェネーチェ Roberto Goyeneche
(Buenos Aires 1926 - 94) は、独自の言語美学および理論によって、
d をつねに発音した。それでも
ブエノスアイレス民衆の語り口の最高の表現と
評価された。民衆イコール無教養ではない。
スペインの首都のなまりでは、単語の最後の d は、
r ときに l に発音される。
自分の住んでる地名まで、なまる。
例:Madrid ⇒ Madrir, Madril マドリール。
Sentad os ⇒ Sentar os(あんたたち、すわってください)センターロス。
南西スペインのアンダルシーア地方、およびそのことばの影響を受けた
ラテンアメリカ各地では、弱い d の音は、ほとんど聞こえないか、
まったく発音されない。
極端な例:Todo es nada. ⇒ Tó é ná.(すべては無だ)トーエナー――s 音も消滅。
アンダルシーアでは(住民全員ではないが)、すべての会話に不可欠の、
過去のことを表わす動詞の語尾 -ado, -ido は、
-ao, -ío と発音されるのが標準になった。
また次のようなことば(このほかにも非常にたくさんあるが)も、
d を発音しないほうが、ふつうである。
vida ⇒ vía(命、人生、生活)ビーア。madera ⇒ maera(木材)マエーラ。
bailador ⇒ bailaó(フラメンコの男性ダンサー)バイラオー――ここでは r も消える。
ブラジルのポルトガル語の標準発音では(全国ではない)、
di および弱い de は、
「ディ」ではなく「ヂ」と発音される。
例:rádio(ラジオ、放送局)ハーヂウ。idade(年令、時代)イダーヂ。
longe de mim(わたしから遠く)ロンジヂミン。
上の歯と、下唇を付けて、それらを離す時のいきおいで出てくる音。
日本語の「ファフィフフェフォ」は、歯と関係なく
両唇のすきまを通って出てくる音なので、ちがう。
この文字は、後ろに来る母音によって、読みかたがちがう。
ga, go, gu のときは、日本語で、硬く「ガギグゲゴ」といったときに出てくる音。
日本語では、最初に鼻に抜いて「ンガ」のような発音が美しく、
また「正しい日本語」とされるが、外国語では困りもの発音だ。
Tango を、「単語」のように
「タンンゴ」と発音してはいけない。
gue, gui は、スペイン語、ポルトガル語ともに、
「ゲ」「ギ」の発音になる。
(注意! 「グエ」「グイ」と読んではいけない)
「グエ」「グイ」の音は、スペイン語と、
ブラジルのポルトガル語では güe, güi と書く。
ポルトガルでは記号を付けてくれないので、
初めて出会った単語は、どう読むのかわからない。
なお、500年ほど前から、スペイン人は、ラテンアメリカ先住民のことばや
アフリカ起源のことばで、ワあるいはウワなどと聞こえる音を
hu または gu の字を使って表わした。
w の文字はラテン系でないので、使わなかった。
その後遺症で、今日 gu を使って書かれていても、
w の音でも発音されることばが多くある。
例:guajiro(キューバの農夫) グワヒーロ、またはウワヒーロ。
güiro(楽器の名前)グウィロ、またはウウィロ。
キューバでの次のことばなどは、絶対にg を使った発音はされない。
guagua(バス)ウワウワ――だれもグアグアとは言わない。
guaguancó(音楽ジャンルの名前)ワワンコー――グワグワンコーとはいわない。
ge, gi は、スペイン語、ポルトガル語ともに、
それぞれの je, ji と同じ音になる。
なお、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスほか、
イタリア移民の勢力が大きいところが各地にあり
人名などはイタリア語のままで読むことが一般化している
(ポルトガル語、フランス語の ge の読みかたは、もともとイタリア語とほぼ同じ)。
たとえば De Angelis(デアンジェリス)、Gianni(ジヤンニ)、
Borghese(ボルゲーセ)、Ghirlanda(ギルランダ)のように読む。
イタリア系でない人も、そのくらいは常識として知っているわけ。
とはいうものの、タンゴのピアニスト Berlinghieri(ベルリンギエーリ)は、
なかなか正しく発音してもらえないので、
Bellingeri(ベッリンジェーリ)とやさしく改名してしまった。
いまはあいだをとって Berlingeri(ベルリンジェーリ)が正式の芸名(?)らしい。
© 2008 Masami Takaba